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サッカー フットサル コラム 2025年5月29日

11年ぶりの青森山田戦勝利に響き渡った歓喜の歌声。コツコツと努力を重ねてきた流通経済大柏の“カメ”たちが躍動する必然の首位 高円宮杯プレミアリーグEAST 流通経済大柏高校×青森山田高校マッチレビュー

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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流通経済大柏高校は逆転勝利を収めて堂々と首位をキープ

強烈な光の陰で、地道に、淡々と、咲き誇るためのつぼみを蓄えてきた。自分たちの力は、自分たちが一番よくわかっている。この赤いユニフォームに袖を通し、大きな舞台で輝けるように、努力して、努力して、努力してきたのだ。そんな日々の自信を胸に今、僕らはこのピッチに立っている。

「僕たちは1年のころからずっと最弱世代と言われてきたんです。でも、僕たちの代は練習が終わった後とか、朝に練習しに来る人が多くて、みんな練習熱心ですし、練習で手を抜く人もいないんですよ。ほかのチームより圧倒的に練習している時間も長いと思いますし、サッカーに対する熱というのはみんな高いと思います。そういう面でみんな向上心を持って取り組んだ結果が、今の1位という結果に繋がっているのかなって」

今季のチームが採用するダブルキャプテンの1人、島谷義進はそう言って少しだけ胸を張る。高校選手権で全国準優勝に輝いてから4か月。そこからほとんどのメンバーが入れ替わった2025年の流通経済大柏高校も、新たなチームの色をより濃く深めながら、プレミアリーグEASTの首位を堂々と快走し続けている。

「10年ぐらい勝てていないことは知っていましたし、相手も4連勝しているということで、自分たちも気持ちは入っていましたね。『ここを勝たないと日本一はないぞ』という意識も全員が持てていたと思います」(山元琉士)

プレミアEAST第9節。ここまで5勝2分け1敗という好成績で、リーグテーブルの一番上に立っている流通経済大柏は、ホームに青森山田高校を迎えていた。開幕4連敗から一転、怒涛の4連勝を達成するなど、波に乗っているチームであり、しかもリーグ戦での対戦では2014年以来一度も勝利がないという、相性も良くない相手。今後に向けての試金石になりえる90分間であったことは間違いない。

お互いにキックオフからバチバチにやり合う展開となったゲームは、少しずつ青森山田にリズムが傾く中で、後半に入ると57分には勢いそのままに、アウェイチームがセットプレーから先制。流通経済大柏は1点を追いかけることになる。

高円宮杯プレミアリーグ特集サイト

だが、彼らはいたって冷静だった。「相手は勢いのあるチームなので、『失点した後の勢いにも、受け身になってはいけないぞ』ということを自分中心に発信しました」とは山元琉士。もう一度目線を合わせ、やるべきことを整理し、それぞれの持ち場へ散らばっていく。

61分。右から増田大空がFKを蹴り入れると、上田哲郎がこぼれを拾い、山元琉士は浮き球パスを前方へ。これを巧みな胸トラップで収めた大藤颯太が、難しい角度からの右足シュートをゴールへ叩き込む。1-1。同点。

70分。中央をドリブルで力強く運んだ安藤晃希がスルーパスを通し、受けたメンディーサイモン友は巧みなポストプレーから右へ。完璧な反転から右足を振り抜いたオゲデベ有規のシュートが、鮮やかにゴールネットを揺らす。2-1。逆転。

追い込まれた青森山田も終盤に掛けて圧力を強めるも、廣瀬煌と大徳剛矢のセンターバックコンビを中心に、最後まで流通経済大柏の堅陣は崩れない。「今日の勝利は大きいですね」と笑顔を見せたのは榎本雅大監督。終わってみれば今季初の逆転勝利。試合後は部員全員で輪を作り、歌い、踊り、飛び跳ね、いつものグラウンドに最高の歓喜を弾けさせた。

 

 

リーグ開幕を1週間後に控えた4月上旬。指揮官が話していた言葉が印象深い。「去年の最初は2年生がプレミアにも、プリンスにもほとんど出ていなくて、それこそプリンスも県1部もみんな3年生がベースだったんですけど、それが夏以降は試合のメンバーのボードに2年生の”色”のマグネットがどんどん増えていったんですよね」

「この代はものすごく自主練するヤツらなんですよ。だから、新チームを立ち上げる時に、『オマエたちは我慢強くコツコツと積み上げてきたものがあるから、ウサギとカメのカメじゃないけど、最後に追い越せるチームになると思うよ』と。正直、前期はちょっと我慢しないといけないかなと思っていたんですけど、やってみないとわからないですし、“戦い”にはなるかなという気はしています」

今シーズンのチームの中で、選手権決勝をピッチの中で経験したのは、安藤ただ1人。大半は5万8千人の観衆が見守るキラキラしたピッチを、スタンドから眺めることしかできず、嬉しさと悔しさを同時に味わった選手ばかりだ。

「隆さん(高橋隆コーチ)からも『前橋育英は決勝に8人出てるけど、ウチは安藤1人しか出ていないんだから、全員が誰よりも努力しないといけない』というのはよく言われていて、自分たちも『とにかく成長しないといけない』という想いはオフシーズンからありました」と明かした山元は、今のチームの1人1人が重ねている日常に手応えを感じているという。

「この代は『努力できる代』とは言われていて、1人1人が現実を受け止めながらも、ちゃんと日々を過ごせていたので、大藤もそうですし、藤田(泰土)もそうですし、自分も含めて急成長組が多いのかなと。そういう面では危機感を常に持ってやったからこそ、今の結果に結び付いているのかなと思います」

選手間の競争力も着々と高まっている。「オゲとメンディーと僕は最近までプリンスに出ていて、それでこうやってチャンスをもらえているので、流経の競争力は本当に高いと思います」と口にしたのは、この日が今季2試合目のスタメンとなったGKの丸山ジェフリー。この日の決勝点に絡んだメンディーもオゲデベも、決してここまでプレミアでの出場機会に恵まれてきたわけではないが、しっかり向上心を携えてきたことが、安定感あふれるセービングを披露した丸山も含めて、大事な一戦での躍動に繋がったというわけだ。

決勝ゴールを奪ったオゲデベ有規

安定したセーブで勝利に貢献した丸山ジェフリー

それでも、チームに慢心の類は微塵も感じられない。榎本監督も試合後の選手たちを見ていて、その空気感を敏感に察知したという。「今日も選手たちが、『ああいうところでもっとやれないと』『オレのここは空いているから』とか、そういう話をしながら帰ってきて、具体的な話がものすごく出ていたから、『一喜一憂してないな』って。『ああ、こういうチームは強いだろうな』と」

今節はピッチの外から試合を見守っていた島谷は、きっぱりと、力強く、こう言い切った。「自分たちでも驚いていると言えば驚いていますけど、今のチームの状況や雰囲気を見ている限りは、首位に立てるチームだなとは思っています」

自分たちの現在地を正確に把握し、コツコツと努力を重ねてきた“カメ”たちの大逆襲。今シーズンの流通経済大柏を支える選手たちが、少しずつ、確実に積み上げてきた『自信の塔』は、プレミアでのシビアな戦いを通じて、そう簡単に崩れない強さを帯び始めている。

 

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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