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サッカー フットサル コラム 2025年5月9日

今季初白星を渇望する名門・市立船橋の苦悩。それでも青いユニフォームに息衝く伝統を託された選手たちは決して諦めない 高円宮杯プレミアリーグEAST 市立船橋高校×鹿島アントラーズユースマッチレビュー

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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開幕から未勝利が続く市立船橋高校

現状へのもどかしさは、誰よりも自分たちが一番感じている。今年こそはと意気込んで挑んだ新たなシーズンも、初勝利はなかなか付いてこない。それでも、諦めるわけにはいかない。歩みを止めるわけにもいかない。この青いユニフォームに息衝く伝統は、必ず後輩たちへと受け継いでみせる。

「うまく行かない時も、下を向かないでやり続けないとチャンスは来ないと思っていますし、上を向いて、ベクトルを自分に向けてやっていくことで、チャンスはいつか生まれると思うので、そこでしっかりチャンスを掴み切って、勝ちを増やせるようにしていきたいと思っています」(森露羽安)

開幕から6試合を経て、いまだ未勝利。10年を超える時間をプレミアリーグで戦ってきた、高校サッカー界の超名門。市立船橋高校の選手たちは抜け出せないトンネルの中で、わずかに見え始めた光の射す方へ、下を向かず、全員で突き進んでいく。

「前半は入りが本当に良くなくて、それは前回の前育(前橋育英)戦も同じで、波多さん(波多秀吾監督)にも言われていたんですけど、自分たちはそこを改善できなくて、結局失点してしまいました」

今シーズンのキャプテンを務める森露羽安は、悔しげに立ち上がりの時間を振り返る。鹿島アントラーズユースをホーム・グラスポで迎え撃ったプレミアリーグEAST第6節。ここまで2分け3敗の最下位と苦境の続く市立船橋は、前節の前橋育英高校戦の0-3という完敗を受け、ねじを巻き直してこのゲームに入ったものの、相手の圧力に押し込まれる展開を強いられる。

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「前半は簡単に縦パスが入っちゃったり、収められてサイドチェンジされたりとか、やらせたくないことを防げなかったのが大きかったかなと思います」と話したのは、鹿島アントラーズノルテジュニアユース出身で、“古巣対決”に意欲を燃やしていた斉藤健吾。21分に先制点を献上したチームは、1本のシュートも打てないまま、最初の45分間を過ごしてしまう。

実はこの日のチームは、急遽のシステムチェンジを施していた。前節までベースに置いていた[4-4-2]ではなく、[3-4-2-1]でスタート。ただ、「相手は自分たちが映像で見ていたのと全然違って、そこに対応できなかったので、前半は難しかったと思います」と森も話したように、正直選手たちの中に戸惑いがあったことは否めない。

だが、指揮官にはそれ以上に気になることがあったという。「システムどうこうもあったことは間違いないと思うんですけど、それ以上に戦う姿勢だったり、イチフナとして絶対に外してはいけないところが抜け落ちていたと思います」(波多監督)。競り負けない。走り負けない。そして、とにかく戦う。それは先輩たちから脈々と引き継がれている、彼らのアイデンティティと言ってもいい部分だ。

迎えた後半。喝を入れられた青いユニフォームの選手たちは、明らかに動きが変わる。55分にはボランチの孫本晟馬、秋陽凪と繋ぎ、上がってきた野地透生が左クロス。飛び込んだ左近作怜はあと一歩でさわれなかったが、両サイドバックが絡んだ攻撃に、ゴールの香りも間違いなく漂う。

「後半は自分たちの目指しているサッカーができたと思います」(森)。79分にはこの日最大のビッグチャンスが訪れる。佐々木瑛汰のポストプレーを基点に、再び左から野地が丁寧なクロス。こぼれを叩いた佐々木のシュートはライン上でDFに掻き出され、懸命に森が詰めたものの、ここも間一髪で相手DFにクリアされてしまう。

ファイナルスコアは0-1。「ハーフタイムに言ったら多少はやれましたし、やれない選手たちではないので、そこでちゃんと自分たちで力を発揮できるかどうか、自分たちで修正していけるかどうかというのは、今後の彼らの課題なのかなと思います」(波多監督)。前半と後半で大きくその表情を変えたチームは、力強くアクセルを踏み込んでみせたが、この日も勝点3を手にするまでには至らなかった。

「去年を知っているからこそ、もっとやらないといけないはずなんですけど、そこでスイッチが入っていないので、歯がゆいなという感じです」と波多監督が言及した“去年”も、市立船橋は苦しいシーズンを送っていた。前半戦を終了した段階では、まさかの未勝利で最下位。残留圏の10位とは勝点10も離されており、降格は免れないような立ち位置だった。

ところが、厳しい夏のトレーニングを経て、チームは息を吹き返した。後半戦の11試合は7勝3分け1敗と凄まじいペースでポイントを積み重ね、奇跡的な残留を手繰り寄せる。先輩たちが必死に繋いでくれたプレミアリーグのバトン。とりわけその渦中をピッチで経験した選手たちが、強い覚悟を持って今シーズンに入ったであろうことは想像に難くない。

昨季は後半戦から出場時間を伸ばし、残留するチームの雰囲気を肌で感じた森は、今のチームに対してこう言い切っている。「自分たちの中で『何かを変えていかないといけない』という話はしているんですけど、本気で言い合ったりできないのはまだまだ今年のチームに足りないところで、去年の3年生は途中から本気で言い合えるようになったので、今は課題が明確になっている分、もっとお互いに言い合って、やっていきたいと思っています」

開幕戦でプレミアデビューを飾り、ここ2試合はスタメン起用されている斉藤も、決意をきっぱりと口にする。「もう学年は関係なく言い合うしかないですし、3年生も自分が思っている感情を言葉に出してくれて、それに対して2年生全員が思っていることを言葉に出していかないと、チームは良くならないので、そこはやっていきたいです。やっぱり試合に出ていない人も、ケガしている人も、マネージャーもみんな支えてくれているので、背番号をもらって、チームを背負って試合に出る重みは感じますね」

この日の後半のパフォーマンスが継続できれば、まずはシーズン初勝利をもぎ取るのも決して難しいミッションではない。「今は勝てない時期が続いていて、自分としてもストレスを感じる部分はあるんですけど、自分がマイナス志向になっていたらチームも絶対にうまく行かないと思うので、ちゃんと上を向いて、状況をプラスに捉えて、仲間にもっと見上げてもらえるような選手になれるように、やり続けていきます」(森)

今の状況から逃げ出したり、目を背けるような選択肢なんてあるはずもない。この青いユニフォームに息衝く伝統は、必ず後輩たちへと受け継いでみせる。逆襲へ。反転攻勢へ。市立船橋の2025年はまだまだ始まったばっかりだ。

市立船橋のキャプテン・森露羽安がチームメイトを鼓舞する

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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